出身は静岡県です。時間があるとジョギングしたり自転車に乗ったりしています。ストイックに運動しているというより、周りの景色が流れていくのが好きなのだと思います。だから途中に美味しそうなラーメン屋があれば余裕で入るし、大盛りを頼んだりして走った分がプラマイゼロになることはしょっちゅうです。あと自然の中で過ごすのが好きですが、最近ニュースで話題の熊が怖いのでもっぱら自宅で庭キャンしています。
高校時代生命科学に強い興味をもったことが始まりです。高校卒業後、単身アメリカに渡り、カリフォルニア大学サンディエゴ校で分子生物学を学んだあと、免疫学の研究室で研究者として働いていました。しかし人体の仕組みや病気のメカニズムを深く学ぶなかで、医療の分野に次第に強く魅かれました。実際に毎日の診察を通して直接人の役に立てる仕事に携わりたいと考え、帰国して医師になりました。
研修医のころ鹿児島の離島にひとつしかない産婦人科医院に住み込みで滞在させてもらっていたことがあり、そこで初めて出産を見ました。古い病院や亜熱帯の強烈な日差しや青すぎる海、勢いにあふれた植生などもあいまって、そのときの経験は私の心に強い印象を残しました。生命そのものといってもよいかも。出産はまるでお祭りのようなもので、それに毎日立ち会うことができる。なんてすごい、そして幸せな仕事なのだろうと思いました。
ちなみに在宅医療やへき地医療に興味をもったのも、この頃の経験がもとです。南国の離島のコミュニティは非常にオープンで、人と人の距離感が驚くほど近く、さとうきび畑を抜けて石垣に囲まれた古民家へ行き、患者さんの生活の話や昔話を聞いたりしていると、診療を通じてその人たちの人生に深くかかわることができる喜びを感じました。
妊娠中に劇症型A群溶連菌感染症に感染し、母子ともに極めて危険な状態となったかたがいました。DICとなり2回心停止しましたが人工心肺まで回して救命できました。後日手紙が届いて次の子を妊娠したことを知ったときちょっと感動しました。 でもそういった経験も忘れ難いですが、何もない普通のお産がやはり一番です。無事に出産が終わったママが立ち会いのご主人としみじみ会話している横でベビーの元気な泣き声が聞こえるとか、もう至福です。そういう時は無口な床屋のように、職人のように、黙々と縫合しています。邪魔にならないようにしつつひそかにほっこりさせてもらっています。
まず患者さんの話をよく聞くことを最も大事にしています。診察室に来る方は、痛みや不安、時には日常の悩みを抱えておられます。医師として診断や治療はもちろん重要ですが、患者さんの声に耳を傾けることで、その人が本当に何を必要としているのかを理解するよう努めたいと思っています。
たとえば婦人科では頭痛や発汗などの症状があり自分は更年期障害ではないかと来院されるかたがたくさんいらっしゃいますが、問診をかさねると、原因は明らかな生活習慣や身体的なものではなく、職場のストレス、睡眠不足、育児の不安などが大きく影響していることも少なくありません。また認知症が進行していく患者さんにおいては、よくよくコミュニケーションをとると、思い出や日常が失われていくことが怖くて言葉少なになっていたということもあります。お話を聞くことで、その人の人生や心情により添えればと考えています。
今後は訪問診療、とりわけがん患者さんを含む在宅での終末期医療に積極的に関わることができればと思います。今まで携わってきた産科では新しい命がこの世に誕生する瞬間に立ち会うことができ、それは大きな喜びではありました。しかしその反面、自分は医師として死に対して十分に向かい合ってこなかったのではないだろうかという思いがありました。もちろん周産期医療においても、それは無縁というわけではありませんが、原則的に妊婦さんも赤ちゃんも絶対に何かあってはいけない人たちなのです。だから死は決してあってはならない、全力をもって回避すべきものとしてとらえてきました—-でもそうではないことのほうが多いのではないでしょうか。誰にでも最後の瞬間は訪れるし、それは意味のない、ましてや忌避するような出来事であってはならないはずです。患者さんとその家族が最後の時間を尊厳をもって全うできるように少しでも尽力できればと思っています。
患者さんの自宅という、より自然でくつろいだ環境で診察を行える点が大きな魅力だと思います。自宅での診療では、診療所や病院のような緊張感を感じさせず、患者さんがリラックスした状態で自分の体調や気持ちを率直に話してくれることが多く、より患者さんに近い場所で診察ができると感じます。また患者さんが自分の家族やなじみのあるものに囲まれたまま最後を迎えることができるというのも、在宅診療の大きな意義の一つです。自宅での看取りは患者さんにとっても家族にとっても心の安らぎをもたらすものではないでしょうか。その瞬間を迎えられるようにお手伝いをするのは医師として非常に責任ある役割だと感じています。患者さんが最後まで自分らしく生き、安心して旅立てるようにサポートできたらと思います。
一方で在宅医療は大学病院や中核病院のそれとは違った難しさを伴うと思います。検査や設備が不足しているのが大前提なので、制約された中でも限られた資源を最大限に活用して想定外の事態などに柔軟に対応したり、患者さん一人ひとりに最善のケアを提供する工夫や努力ができればと思います。
また患者さんだけでなくその家族も支援の対象です。患者さんの身体的、心理的な問題だけでなく、ご家族の精神的・物理的な負担に対しても、できる限り気づくことができたらと思います。そして適切なサポートやアドバイスを提供することでご家族が安心してケアに取り組める環境を作るお手伝いをさせていただければと思います。
日々の診療の中で皆さま一人ひとりの健康と向き合うことは、私にとってかけがえのない時間です。身体の不調や不安を抱えるかたは、どんな小さなことでも構いませんので、どうぞお一人で悩まずにお話しください。プライバシーを大切にしながら、最善の医療を提供できるように、皆様がたが少しでも安心して過ごせる日々を支えられるように全力で努めていきたいと思います。